
かつてこの土地では、人と動物と森が、もっと近くに寄り添って生きていた。
みかんの木を育てながらふと見渡すと、山の木々、風に揺れる草、湧き出る水、そしてその中にいるイノシシやタヌキ、ハクビシンの姿が自然と見えてくる。
彼らは本来、ここに“いる”べき存在であって、「害獣」と呼ばれるべきものではなかったはずだ。
先日、中山間事業に関する会議があった。ここでもそうだが、今、多くの会議や地域の声は、「どう駆除するか」に集中してしまっている。
自分たちの暮らしを守るためとはいえ、それだけでこの問題が本当に解決するのだろうか?
どこか違和感が残る。
気づいたのは、「緩衝地帯」が消えているということだった。
人と動物をつなぐ“クッションの森”――それが失われた今、イノシシたちは境界を越えて、人の営みの中へと現れるようになってしまった。
森がやせ、下草が消え、水が減り、ドングリも落ちなくなる。
すると、動物は山から下り、私たちの畑にやってくる。
この循環のほころびを直さなければ、どんなに柵を立てても、根本的な解決にはつながらない。
だから今、改めて「里山」を見直したい。
それはただの「山」じゃなく、人と自然が一緒に手をかけ、手を引くように暮らしていた場所。
剪定枝を炭にして戻すことも、水脈を整えて流れを回復させることも、すべてはこの「共に生きる風景」を取り戻すための一歩だと思っている。
目指したいのは、「排除」ではなく「棲み分け」。

動物たちが山で暮らし、人が里で暮らし、互いを感じ合える距離感をもう一度つくっていきたい。
まずは足元から、森の声に耳を傾けながら。
この小さな再生の積み重ねが、未来の風景を変えていくと信じて――。
「ユウギボウシの園地は自然との対話から始まります。」